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貨物列車の夜☆

奥さんの実家に遊びに来た帰りは、
日曜の夜 20時11分宇佐美発に乗るのが最近のお決まりだ。


この電車は伊東線から東海道線直通だから熱海駅での乗換えがなく、
宇佐美駅からグリーン車でゆっくり出来るから。
 
グリーン車に乗り込むと、進行方向にむかって左の窓側の席に座って外を眺めながめていた。

時々見える街の灯にはどんな生活があるのかなんてとりとめなく考えていたら、
熱海を過ぎた辺りで突然隣の線路を貨物列車が追い抜いて行った。
 
それを見た僕の記憶はまるで貨物列車に乗せられたみたいに、
実家の子供部屋の2段ベットで妙に近い天井を眺めながら寝てた
10代半ばのある一場面に辿り着いていた。
 
 
実家のマンションの裏にある空き地を挟んだ向こう側に
JR鹿児島本線が通る箱崎駅があった。
 
勉強に飽きると窓のブラインドの隙間から、駅で電車を待つ女子に
かわいい子がいないか探しているのが、男子校に通う中学生の僕だった。
 
そんなやり場のない未熟な自意識やら何やらで夜更かしした夜。

2段ベッドの下段で寝てる小学生の弟を起こさないように階段を登り、
上のベッドに横になるけど目は冴えたまま。
 
天井の木目をじっと見ていると、真夜中過ぎに貨物列車の走る音が聞こえてくる。
 
貨物列車は普段の電車と違って車両が多く、ガタンゴトンという音がしばらく続く。
 
音と一緒に、窓のブラインドの隙間を縫って、下から照らされた駅の光を遮る
貨物列車の影が規則正しく天井を走っていった。
 
それを見ると、僕は心安らかに眠りに落ちたものだった。
 
 
子守唄代わりに走る影を見ていたあの日の貨物列車が今日通り過ぎて行った気がした。
 
そして不意に思い出した。
 
あの頃の僕はマンションの狭い子ども部屋から解放され、
真夜中の貨物列車の行く先にある、ここではないどこかで、
今の自分じゃない何かになれる将来を楽しみにしていたことを。
 
 
今の半分程度の歳だったあの頃の自分に、無性に声をかけたくなった。
 
33歳で結婚して、祐天寺っていう東京の素敵な街で、
大好きな人と一緒に暮らしてるよって。
今の僕は僕が想ってた何かと比べてどうだい?って。
 
 
この感情の揺れを人は郷愁って呼ぶのかな…
なんてことを考えたそんな夜でした。
 
 
 
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